作戦会議

 I子とK子は、カウンターの一番右端を一つ空けて椅子にかけた。

「K子、その靴。昨日買ったの?」
 I子が聞いた。

「そうよ。前から欲しかったの。でもキッカケがなかったのよね」
 手鏡で口紅を見ながら答えた。

「K子は、いつも恋するたびに新しい靴を買うから、靴箱には失恋の

数だけ靴があって大変でしょうね。まったく呆れるわ」I子は、そう言い

終わると、窓硝子に映る自分を見ていた。

「I子だって、髪型変えているじゃない。あなたと待ち合わせすると、い

つも探すのに苦労するのよ・・特にあなたを夢中にさせる男がいるとき

は最悪ね。彼が振り向いてくれるまで髪型が変りつづけるから、友達

の私だって分からなくなるのに、どうしてその人が同じ人だと気づくの

かしら?」
 手鏡を見ながら話していたK子はバッグに手鏡をしまった。

「お互いに色々言われても、変らないわね。しかし、一人だけ中学時代

から、進化してないのがいるわよ」と、I子は窓の向うに見える坂の下か

ら駆けてくるU子を目で追った。

 ガラン、ガランとサンキッズのドアに取り付けられた大きなベルが鳴り、

U子が入って来た。
「六時二十七分。約束時間内、やった! 間に合った!」と、一人で呟き

ながら、カウンターの一番右端、いつもの椅子に腰掛けた。

「これで全員揃ったようね。さあ、綺麗なお嬢さん達、何にしましょうか?」  
 ママが声をかけたのが、ちょうど六時三十分。サンキッズには、カウンタ

ーの椅子が六つとテーブルが二つあるサイホン珈琲の専門店だ。

「少し早いけど、アイスコーヒーを飲んでみない? うちのはシロップを入れ

なくても苦くないのよ」 
 と、どことなく、いい家庭の育ちで、高学歴な雰囲気を漂わせるママが聞い

た。店の外は、仕事が終っても、ゆっくりと珈琲を楽しむ時間もなく、慌しく駅

に向かって夕方の坂を下る人々が足早に通り過ぎて行った。

「そうね。今日の昼間の太陽は、もう夏ね。私はそれでいいわ」 
 I子が注文した。すると、K子が人差し指を立ててママにウインクした。

「わたし、ココアね」と、U子。

「はい、はい」と、ママは小さな笑みを浮かべて二回返事をした。そしてサイ

ホンの準備を始めた。


「彼達と七時半に駅前の『潮音』に待ち合わせの約束をしたわよ」
 と、I子が話し始めた。

「え、純和風、居酒屋なの?私はイタリアンか、フレンチ風なお店がよかった

のに。だってムードがないじゃないの。それに、この靴に日本酒は似合わな

いわと思うわ」少し不機嫌そうにK子が言った。

「わたしは、その方がいいわ。お腹がペコペコだもの、それにちょうど『はつが

つお』を食べたいと思っていたのよ」と、言ってU子は、I子の顔を見た。

「U子、『初鰹』なんて、意外と粋ね。生のお魚食べられるようになったとは知

らなかったわ」

「うそ!『はつがつお』ってお魚なの? 昨日、帰りの電車の中で誰かが話し

ているのを聞いたのよ。『季節を感じて、美味しい』って言っていたから、食べ

てみたいと思ったけど、訂正しょうと・・」

「まったく、自分の嫌いなものの名前ぐらい覚えてときなさいよ」K子が口を挟

んだ。

「嫌いだから知らないのよ。K子だって、ズッキー二が嫌いなのに、コージェッ

トを食べていたじゃない。どちらも同じものだと分かるのにイタリアン三軒とフレ

ンチ二軒での食事、おかげで、わたしがズッキーニを嫌いになったわ」

「二人とも、その話は終わりよ。今日は彼達に会うのが二回目なのだから、い

い印象を与えてよ。K子は、前回のようにコップで日本酒を飲まないでね。そ

れと酔って隣のテーブルにいい男を見つけても話かけることはなしよ。U子は、

星と月の話をしないこと。あなたが星の話を始めると、彼達は、次々に銀河系の

星の名前を聞かされて、悪酔いするわ」

 三人のリーダーであるI子が二人にきつく注意をした。が、その時、

「I子、酔ったふりをして男の人に寄り添ったら駄目よ」
 U子とK子が同時に声を上げた。

「どうやら作戦会議は終ったようね。今回は成功するような気がするわ。さあ、冷

たいのが出来上がったわよ」ママがアイスコーヒーとアイスココアをカウンターの

上に置いた。冷たい銅のカップの外側にできた水滴が、それぞれのカップで光っ

ていた。

 

 

 

 

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